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2009 年 5 月 のアーカイブ

「鱗の輝き」-料理長の昭和日記 【昭和36年8月7日】

2009 年 5 月 30 日 admin コメントはありません

私の日記は、昭和36年8月7日から始まっている・・・料理の道に入って2年近くが経とうとしている時である。

今日も余り忙しくなく夏場の盆近くならこんなものだろう。仕込が終わろうとしている昼過ぎ、おやっさんに呼ばれ、「明日の10時に部屋(組合事務所)に顔を出す様に・・・」と云われた。
先輩の話だと、その時渡された封書は紹介状だとか。
「やっと鍋洗いの毎日から解放される日がやって来た!!」

次の日の朝8時半までゆっくり眠らせてもらい、晴々とした気分で南の新歌舞伎座の裏にある部屋に出かけて行きました。
大きな声ではっきりと挨拶したにもかかわらず、机に向かっている人も入口のすぐに腰掛けている人々も視線を向けただけである。
「オイッ!お前 名前何ちゅうんや?」一番奥の席に居る年配の人のところに連れて行かれた。
紹介状と私の顔を見乍ら、
「ええ面構えしてんな。しかし人間は真面目が一番やで。」
「今日は8月8日で末広がりの験のええ日や。」
「しっかりきばって ええ職人にならなあかん。」
独り言のように喋りながら全然私の方を見ていないので、私は心の中で「変わったオッサンやナ・・・」とつぶやいていた。

あとで知ったことだが、この年輩の人が全国に名の知られた調理師斡旋業「京定」の五十嵐さんというだとのこと・・・
私のような板前になりたい奴はゴロゴロいて、すぐ替わりの者が部屋から送られてくるので、一人前の職人になるまで、余り当たり前の人間らしく扱われることは少ない世界である。

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「鱗の輝き」-料理長の昭和日記 【初めに】

2009 年 5 月 28 日 test01 コメント 1 件

私の経験を下に思い出すままに・・・文章を書いたことのない者が基本も約束事も技術も知らずに書き綴ったものであります。
80%位は真実の経験ですが、忘れ去ったこと、そのままぶちまけられないことや多少かっこよくなったりしまったりで20%程は勘弁していただきたい。

「鱗の輝き」という表題の由来は、酒の席で師匠が何気なく友人としゃべっているとき、傍にいて聞いた言葉がとても印象に残ったのでずっと憶えていたのです。

「あいつ、この頃鱗見せんなあ」「水の中に潜っとったら鱗見えんがな、頭出して来んかい」
色々な意味に使われていた様ですが、その時は大勢の若者が料理人を目指してこの道に入って来るけれど、「水面より上に飛び跳ねて鱗が金色に輝くことのないものがほとんどで、金色の鱗に輝く男は限られた者しかいない」
と云ったような会話でした。かつて輝きたいと願って苦労した一人として忘れられない言葉でありました。
「運」「鈍」「根」「三つそろわんと才能があっても男になれんもんや」そんな会話から選ばせてもらいました。

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